今月の天風箴言

人を憎んだり恨んだり或は中傷したりする人は、
自分も又必ず他の人からそうされるという事を忘れてはならない

箴言註釈18 現代語表記版

この章句は、人生に存在する因果応報(いんがおうほう)の大事実を厳しく戒(いまし)める、まことに深く省みるに値する言葉なのである。

ところが、このわかりきっている事柄を、多くの人々はとかく不用意に忘れがちで、ややもすると人を憎んだり、怨(うら)んだり、さらに平然と悪口や中傷までするようになる。

そして、それを格別悪いことと思わない。いやむしろ、それは人間の誰もが行う当然の行為のように思っている人が少なくない。

中には、そうすることに一種の快感を感じるという、理解しがたい人すらいる。

そうして、その種の人に限って、他の人から憎まれたり、怨まれたり、あるいは中傷されたりすることを、極度に忌(い)み嫌う。即ち極端に世間の評判を気にするという、笑うべき矛盾(むじゅん)をその心にもっている。

しかし、他人を容赦(ようしゃ)なく悪(あ)しざまに批判したり憎悪したりしているにもかかわらず、自分だけは悪口を言われたくない、誉められていたいということくらい、およそ虫のよい話はない。

自然というものは、そんな不公平な応報の法則を作ってはいない。

必ずや、因果応報の当然の結果として、自分もまた、他の人々から自分のした以上の憎悪や中傷を受けるにきまっている。

この犯すことの出来ない事実は、洋の東西を問わず古来不変のものである。

その証拠には、現にバイブルのマタイ伝に、
「Judge not, that ye be not Judged. 汝(なんじ)等人を審(さば)くなかれ、そは審かれざらんがためなり」
と明記して誡(いまし)めていることでもよく分かる。

第一慎重に考えなければならないことは、他人を悪く批評したり、又は中傷して快感を感ずるというのは、その人格の中に少なからず「善」なるものを欠如していることに原因があると言ってよい。

およそ、人間の生活が善という基本的な道から外れて行われるとき、そこに決して人生幸福という結果が訪れるはずがない。

この明らかな現実から厳格に省みれば、かりにも宇宙真理に順応する心身統一の大道理に目覚めて、その生命の原理を支配する精神生命の、対人生態度の積極化を徹底させることに専念する我ら天風会員は、必ず常に自己の心の態度とその状態とに厳しい内省検討を施して、万が一にも、人を憎んだり、怨んだり、ましてや中傷するがごとき卑しむべき言動は決してすることのないよう、我と我が心に厳命するべきである。

そして常に、真人としての真の気高さを堅く保持すべきである。

他人の中傷や悪口を敢(あ)えて言う人というのは、それは人間として大切に考えるべき自己批判ということを、往々にして厳正にしないで、寧(むし)ろ蔑(ないがしろ)にするからである。自己批判を厳正にしないと、どうしても他人の批判にのみ、その注意がやたらと注がれることになりがちになるものである。

要は、前述した内省検討(積極観念養成の要項の一つ)が、完全に実行されていない結果であると断言する。

それからもう一つは、他人の言動のみを批判することにばかり熱心で自己批判を厳正に行わない人の多くは、大概は人の世に存在する縁(えにし)という重大なことを、案外軽く考えている傾向がある。

縁というものを尊重して考える人は、みだりに人を憎んだり、中傷したりしない。

そもそも縁ということは、極めて重大に考えるべき人生問題なので、同時にこれこそはまさに人間の理智の力では容易に推し量ることのできるようなそんな簡単な事柄ではないということは、しばしば述べてきていることである。

多くいうまでもなく、何十億という簡単に数え切れぬ程の多数の人間のいるこの世界において、お互いに知り合う間柄になるということは、何度もいう通り、到底人間の理智の力では何としても考えきれない不思議な事だとしか思われない。

この不思議な事実を、すなわち縁と呼ぶのである。

天風哲学は、この縁というものを、原子や素粒子の結合同化と同一の原理と原則の下に活動する、微妙なる宇宙エネルギーの特殊作用のひとつであると断定する。

そして同時に、人間の理智力で判断不可能な微妙なる自然作用に対しては、当然無条件でこれを尊重して考えるべきであると強調するものである。

昔から、「一河の流れ、一樹の蔭、袖すり合うも、躓(つまず)く石も、これことごとく縁のはし」という言葉があるのも、まさしく縁を尊重すべきもの、疎かにするべきではないことを形容したものであるといえる。

ところが、憎悪や、怨恨(えんこん)や、さらに悪口や中傷というものは、この尊重すべき縁で結ばれた、すなわち知り合いが概ねその対象にされているのである。

という事実に思い至ると、結局、その種の人は前述した通り、この縁というものを軽く考えているに相違ないといえる。

これに反して、真に縁なるものが尊重すべきもの、疎かにしてはならないものであることを正しく理解する人は、みだりに他人に対して悪意ある批判などはしない。

ましてや悪口や、中傷や、憎悪や、怨恨などという価値のないことを、絶対にその心に抱かない。

そうである以上、本当に真人であろうと欲する者は、「殷鑑(いんかん)敢えてこれを遠きに求むるに及ばず(註・戒めとなる手本がすぐ身近にあるということ)」、常に自らを深く省みてそれを「鑑(かがみ)」として、純粋で正しい人生の建設にただ一途に努力するべきであると、心より強く勧めるものである。

『天風哲人箴言註釈』昭和三十八年発行、「箴言十八」現代語表記・編集部編
 

中村天風とその足跡中村天風とその足跡

中村天風とその足跡

中村天風の生涯と「心身統一法」の創見により、現代に渡り多くの政財界、各界の有力者に多大な影響を与え続けている彼の人生とは

天風会について天風会について

天風会について

人間が本来生まれながらにもっている「いのちの力」を発揮する具体的な理論と実践論である「心身統一法」の普及啓蒙を目的とし創設された天風会を紐解く

天風箴言天風箴言

天風箴言

艱難辛苦の果て、盛大な人生を築いた中村天風があなたに送る人生のメッセージ。その中から毎月1句、そのメッセージを伝えます

天風会施設紹介天風会施設紹介

天風会施設紹介

中村天風作の書画·彫刻、愛用の品々、貴重な写真パネル等を展示する「天風GALLERY」、その他どなたでも気軽に利用できる貸しホール·会議室について

天風語録天風語録

天風語録

人生の深い洞察から生まれた中村天風の教え。心にひびくメッセージをご紹介します。

書籍書籍

天風会OFFICIAL書籍・CDサイト

天風会では、中村天風の著作·講演録、
心身統一法の各種解説本を発行·販売しています。

詳細はこちら >

天風会おすすめ
書籍サイト