今月の天風箴言

天風教義はこれを修行として行ったのではおよそ第二義となる
只一念それを生活行事として行う時完全に第一義的のものとなる
    

箴言註釈10 現代語表記版

この事柄は、心身統一法の講習会を熱心に聴かれている人なら、今さら改めて説明する必要はないと思う。

しかし、多くの会員の中に、この事を正しく理解していないのではないかと思われる人がいるので、ここに今一度説明することとする。

多くいうまでもなく、わが天風会の教義とする心身統一法なるものは、「人間の生命に与えられた本来の力の完全発揮」ということが、その組織の全目的である。

従って、口頭や書物で伝える、あるいは行法という様々な形式をもって親しく説いている各種の方法は、そのいずれもが人間本来の生命力、すなわち体力、胆力、判断力、断行力、精力、能力という六種類に総合された力、詳しく言えば理想的人生(生きがいと生まれがいのある人生)を作るのに絶対的に必要とする各種の力を完全に発揮させるために、この天風が、長年にわたり文字通り研鑽努力(けんさんどりょく)して、現実的効果を必ずもたらそうと決意して創り上げ体系化した、いわば信念の結晶をすべて網羅(もうら)したものである。

そして特に声を大にして強調しなければならないことは、その方法のことごとくが、精神生命に関することでも、あるいは肉体生命に関することでも、いずれもがそのすべてを日常生活を送りながら行うことができるように組み立ててある点が、その特徴の最たるところなのである。

言い換えれば、心身統一法=日常生命道というように作られているのである。
否、この点に、この方法を組み立てる上での人知れぬ苦心があったと明言したいのである。

ところが数多くの会員の中には、いわゆる親の心子知らずのたとえの通り、この点を正しく理解せずに、心身統一法という教義を日常生活の行為とは引き離して、何か特別のときに特別の気持ちで行う特殊な行為のように考えている人がいる。

もちろんそういう人は極めて稀(まれ)ではあるが、終戦前に修練会を履修(りしゅう)した人の中にそういう人が一人いたことに、少なからず残念な思い以上の唖然(あぜん)たるものを感じたことがある。
そのことを簡単にここに記すことにする。

あるときある会員に「君はプラナヤマ法を充分実行していないようだね」と言うと、その人は「どうしてそれがおわかりですか?」と怪訝(けげん)そうに聞くので、「肉体生命内に活力(ヴリル)が充実しているのといないのとは、目をみるとすぐ分かる。つまり、オーラの発光が薄弱なのが現象として現れるのだ」と答えると、その人は頭を掻(か)き掻き、「何しろ商売が忙しいので、心がけてはいるのですが、なかなか、ゆっくり修行する時間がありませんので」と、さも止むを得ないという顔つきで言う。そこで、
 
「天風会の教義の中で、特別の時間がないと心がけても行うことの出来ない方法が、何か一つでもあるのかね? 特にプラナヤマ法の如きは、何をしているときでも行えるではないか。歩いていても、座っていても、話をしていても、仕事をしていても・・・」と言うと、不思議そうな顔をして、「そんなときに行なってもいいんですか?」と言うので、「人間はどんなときでも、生きている間は呼吸をしているではないか。呼吸をしている以上、その呼吸の仕方を、クンバハカを応用するプラナヤマ法にして活力を吸収することくらい、何の手間ひまもいらず、一日に何百回でも行えるではないか」と言うと、「そうだとすると中々面倒なものですね」と、しゃあしゃあとして言うので、「そんな考え方ではどんなに効果のある方法を教えられても、君には何の実績も得られないことになる。第一、人生改造に必要とする方法を面倒だなどと言うのは、真理を蔑(ないがし)ろにした極めて不遜(ふそん)な言葉だ。要するに、面倒だなどと言うのは、真理に順応した生き方をしなければ、生まれがいのあるそして生きがいのある、すなわち人生の三大不幸と言われる病、煩悶、貧乏というものを克服することのできる理想的人生に生きることができないという、貴重な人生理念を正しく自覚していないからなのだ。

言い換えれば、せっかく教えられ会得した万人が未だ知らないでいる貴重な方法を、面倒というような気持ちで実行しないのは、自ら物好きに不幸な人生を招いているのと同然である。

遠慮なく言えば、それは天風会員としての資格を冒瀆(ぼうとく)している人だと言わねばならない。だからいつまでも君は、完全に活力を充実させられないでいるのだ。第一そんな気持ちでは、せっかく会員になったかいがない。

だから、一つ考え方を変えて、心身統一法=日常生命道というように、極限すれば寸刻分秒の間といえども、全ての方法(心の活かし方または使い方、及び肉体の活かし方、使い方等々)を真剣に実行することに専念努力しなさい。そうすれば、僅(わず)かの月日の間に自分でも驚くほどの価値高い変化を、精神にも肉体にも必らず見出すことができるから」

と、懇々(こんこん)と訓(おし)え誡(いまし)めてやったところ、黙々として聞いていましたが、その後半年ばかり後に会った時は、全く見違えるような人間になっていて、「あのとき先生に訓えられて、一生懸命実行してご覧の通り、健康も更に運命までも、今まで想像もしなかったほど幸福になりました」と、目に涙を一杯ためて礼を言いましたが、これは要するに、最初の間は心身統一法を特殊な人生修行と考えて行修していたからなので、従って、どうしてもその効果が十分に味わえなかった。ところが、今度はそれを日常の生命道として、人生の刹那刹那(せつなせつな)に専念実行したから、当然、第一義的な行修となったので、その効果も必然の現象として、本来持って生まれた生命力の完全発揮となったのである。

だから、諸君もこういう事実を貴重な先例として、この上も一瞬といえども「我あり」との人生意識を感じた際は、どんな場合にも、日常生命活動の中から、心身統一法の各法を決して分離させないで、ただただ実行すべしである。
 
すなわち、このようにしてはじめて、哲聖、陶淵明(とうえんめい)の言ったように、
「心与道合触而不動 心此地到始得安楽 罪垢滅尽無復煩悩」
「心道と共に合触して動かず、心この境地に到り始めて安楽を得、罪垢(ざいく)滅し尽くして復(かえ)る煩悩なし」(註・心が道に合致して動じることがない。心がこの境地に到ってはじめて心は安らかになり、罪や汚れは全て消滅して再び煩悩が戻ることはない)
という真に安心立命の人生を現実に自分のものとすることができ、われわれが提唱する人生目標である、強さと、深さと、広さと、長さを、本当に現実にできる幸福な生きがいのある人間になることができるのである。

否、これこそまさに、万物の霊長たるわれわれ人類の生命に、生まれながら与えられた不滅不変の宇宙真理であると、厳かに信念すべしである。

『天風哲人箴言註釈』昭和三十八年発行、「箴言十」現代語表記・編集部編

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